親と子
琵琶湖
夫が娘に託した手紙
近江聖人と呼ばれた中江藤樹は
お母さんが心配で地位も名誉もかなぐり捨てて脱藩し、母の元に帰りました。
彼を慕って多くの門人が集まりました。
それが藤樹書院です。
親を大事にしない人は誰からも信頼されません。
友達も失います。親思う心に勝る親心 今日の訪れなんと聞くらん
刑場の露となる直前に吉田松陰が詠んだ辞世の和歌です。
自分が親を思っている以上に子を思う親の心というものは深く重い、
処刑される身としては、親が悲しむことが一番辛いという意味です。
このような人物であったからこそ、
彼には多くの有為な人材が集まり、
やがて彼の教えに従い天下国家を動かしました。
近江が生んだ陽明学者、中江藤樹は
松陰が一番尊敬した人でもありました。
お膝元の偉人を我が子にも話して聞かせ、
自らも日々自戒してください。
私は中江藤樹の話は母から小学校一年生の頃、
偉人伝を買ってもらい枕元で読んで聞かせられました。
今でも印象に残っているのは、
藤樹がまだ幼少の頃、辛い修行先から病弱な母を心配して戻り、家の垣根越しに見た光景はお母さんが真冬の寒空の下で井戸水を薄衣の上から何度もかぶっているものでした。
息子が辛い修行に耐え、立派に学問を修めるようにと願う厚い親心でした。
藤樹は自分が思っている以上に親の恩愛が深いことに気づき、雪が降りしきる道を引き返したのでした。
近江聖人
中江藤樹先生の教え
近江の国(滋賀県)でお生まれになった中江藤樹先生は、郷土の人々や藤樹書院に集まってくる人々と共に、人間として大切な道を学び、その道を実行し、近江聖人とたたえられました。
先生は次のようなことを教えてくださっています。
◆致 良 知(ちりょうち)
人は、だれでも「良知」という美しい心を持って生まれています。この美しい心は、だれとでも仲よく親しみ合い、尊敬し合い認め合う心です。
ところが人々は、次第にみにくいいろいろな欲望が起きて、つい良知をくもらせてしまいます。
私たちは、自分のみにくい欲望に打ち克って、良知を鏡のようにみがき、その良知に従い行いを正しくするよう日々努力することが大切です。
◆孝 行(こうこう)
私たちの心や体は、父母からうけたものであり、父母の心や体は、先祖からうけつがれたものであります。それはもともと、大自然から授かったものです。
孝行とは、父母を大切にし、先祖をとうとび、大自然をうやまうことです。そのためには自らの良知をみがき、体をすこやかにし、行いを正しくし、家族やまわりの人々と仲よく親しみ合うことが大切です。さらに、子どもをあたたかい心でしっかりと育てることも孝行です。
知行合一(ちこうごういつ)
人々は、学ぶことによって、人として行わなければいけない道を知ることができます。
しかし、学んだだけで、それを行わなければ、ほんとうに知ったことにはなりません。物事をよく理解し、実行してこそはじめて知ったことになります。
◆五事を正す(ごじをただす)
五事とは「貌、言、視、聴、思」(ぼう・げん・し・ちょう・し)を言い、それを正すとは、なごやかな顔つきをし、思いやりのあることばで話しかけ、澄んだ目でものごとを見つめ、耳を傾けて人の話を聴き、まごころをこめて相手のことを思うことです。
ふだんの生活やまわりの人々とのまじわりの中で、自ら五事を正すことが、すなわち良知をみがき、良知に到る大切な道です。
*近江聖人中江藤樹三百五十年祭実行委員会発行の冊子より引用*
0コメント